■原画を発表する機会をつくる

加藤直之(以下、加藤) 出版社のラピュータさんが、デジタル媒体を使って、武部本一郎さんの原画を発表する場を構築したいという話があり、協力するということになりました。ただ、武部さん以外でも、原画を管理したり、発表されたりする価値のある人がいらっしゃいます。こうした企画は、文化活動といった意味合いもありますから、私としても是非とも協力したいというところです。
寺田克也(以下、寺田) 原画の展覧会を美術館などでもできたらいいですね。
加藤  いま、ラピュータさんの方でも、常備展ができそうなところを探しているそうです。亡くなったり、原画はあるけれど発表の場がなかったりしている人達の作品を、例えば宮崎県にある生頼範義さんの展示会のように、一ヶ所に集めて管理整頓してみたいと思っています。
寺田 理想ですね。オレにしても作品の管理は、人ごとではないですから。今ですと、そういう展覧会は地方のほうがやりやすいのではないでしょうか。東京だと場所がとれなくて難しいですし。ご本人が宮崎にいらっしゃるというのが大きいのですが、生頼さんの宮崎での大回顧展の例もあります。
加藤 生頼さんは、カタログや図録を出されていますね。玄光社で出版物もありますし。ただし、そういったものは戦艦やゲームなど生頼さん全体の作品を一つの流れを取り扱っていますが、生頼さんのゲームの絵はどうでもいいので……(笑)。
寺田 いやいや!オレにはどうでもよくないですよ!!
加藤 まあ、もうそういう流れのものは既に形として発表されているということで、あえて新しく取り扱う必要はないかなという意味です(笑)。私の構想の一つとしては、例えば生頼さんの「戦艦」の絵だけを集めてみるなど、作家の方のテーマ性をもって展示してみたい気持ちがあります。
寺田 確かに、そこに興味があるファン層もいます。
加藤 ただ、生頼さんもそうでしょうが、キャンバスやイラストボードにある原画をデジタル化しなくてはいけないこともでてきます。そこのコスト面に課題があります。

■自分の将来を導いてくれた絵

寺田 先ほどお話にあがった武部さんは、歴史のある方ですから、かなり昔 のことから説明していく必要があるでしょうね。
加藤 武部さんが描かれた『平家物語』はすごいですよ
寺田 そうなんですか!?原画はどこにあるのですか。
加藤 希望でもありますが、いずれ、僕の事務所へ。
寺田 その時にはさっそく観に行きます(笑)。武部さんは、子供のころ読み始めたSFで知りました。小学校3年生のときに「キャプテン・フュー チャー」にはまっ て、その挿絵は水野良太郎さんでしたが、そこから早川書房のSFシリーズに興味をもったわけです。書店でSFコーナーにいくと、そこに は、武部さんの絵が あるハヤカワ文庫の「ターザン」シリーズや創元推理文庫の「ペルシダー」シリーズが置いてあって目を引きました。実はその絵を見たとき 「既視感」を感じま して。後で家に帰って書棚をみると『ルパン対ホームズ』の絵があって、これが武部さんの作品でした。「いいな」と思った絵を見ると、やは り武部さん、とい うことがよくありました。
加藤 ルパンの全集の絵は、確かに武部さんがやってましたね。
寺田 そこから、加藤直之さん、そうした世代の皆さんの作品を注目していくことになるのですが、この世界の入口を開いてくれたのは武部さんでした。中学時代には、武部さんの絵を模写していたこともあります。そういう気になる「挿絵アーティスト」としての武部さんが携われてた本は手元に置いてましたね。あとさまざまなジャンルの本に描かれていたので、お名前を意識していなくても、目に触れる絵で自然と刺激を受けることが多かったです。
加藤 武部さんは動物図鑑もよく書かれていました。ちょっと人とは違うタッチの動物だと思うと、武部さんだったりして。
寺田 オレにとって加藤さんは、自分がこの世界に入ることを意識してから、その作品に出会えた方ですが、武部さんは、オレがまだ何を目指すのかを決める前からいらっしゃった方ですから、少年時代の懐かしさと今は感謝という感情とともに、多くの人に知ってもらいたい思い入れがありますね。
加藤 そういった意味では、一番最初は小松崎茂さんが思い出に残っています。それから高荷義之さんですね。お二人は、少年物の漫画月刊誌で知りました。武部さんの絵はどちらかというと図書館で出会いました。図鑑やルパンものの全集物を読んで。ただ、「武部さん」が描いた絵だとしっかり意識したのは、創元の「火星シリーズ」ですね。
寺田 やっぱり。
加藤 てっきり「海外の上手なイラストレーターを出版社が使っているのだ」と思っていたら、挿絵に地図や戦略図がカタカナで文字が書いてあったので、「これはもしかしたら、日本人が描いたのではないか」と。そこで、武部本一郎という名前を知ったわけです。
寺田 いくつぐらいのころですか。
加藤 中学2年生です。それから、武部さんの絵を求めて書店に行くのですが、当時、武部さんの描かれたSFは「火星シリーズ」ぐらい。それも、4巻までしか出ていません。児童書のコーナーであれば、もっと武部さんの作品はあったのでしょうけれど、そのころは武部さんの「SFの絵」を気に入っていたので。武部さんの描かれた文庫が発売されるたびに、狂喜乱舞といった勢いで買いにいきました。創元の火星シリーズは11巻で終わっているのだけれど、しまいには「書店を回っていると「12巻がでた」といって手に入れて喜んでいた」という夢を見たこともありますね。
寺田 (笑)それはとてもいい話です!
加藤 私の理想は、武部さんのタッチで、「火星シリーズ」の12、13巻を描きたいのです。
寺田 前に一度やっていませんでしたっけ?
加藤 『SFマガジン』の武部さんの追悼号で描いたのですが、そのころは、まだ技術が足りなくて。少し前にラピュータから出た武部さんの画集アプリを作ったときに、収録するコラムの素材として、武部さんの「(「火星シリーズ」の主人公の)ジョン・カーターと(同ヒロインの)デジャー・ソリスが都市から飛行戦艦が発艦していくのを見送るシーン」と「ジョン・カーターが緑色人と一緒に草原を馬で駆けていくシーン」を描き始めたのですが、忙しくなって中断しています。



■武部本一郎の絵は唯一無二

寺田 武部さんの絵は水彩で描かれていますよね。あの肌色がいい。すごく好きなんです。ただ、武部さんの画風は、現在では子供用の挿絵で見られない技法とタッチの、言ってみれば昔ながらの味わいですよね。今の若い人達が武部さんの作品に、改めてどのような反応を示すかは興味がありますね。彼らの感想として、古いと思っちゃうのか、新鮮な興味をもってもらえるのか。武部さんの絵は、確かにメカの描写などは時代を感じさせるものがありますが、でも古臭く思うことはまったくないですよね。他に似たような絵がないので。
加藤 武部さんの絵は唯一無二ですからね。
寺田 そうすると、若い人達も素直な気持ちで武部さんの世界に入っていけるかもですよね。何か似たような絵ですと、比較されて色がついてしまいますから。武部さんの絵を見れば、びっくりすると思います。
加藤 武部さんは、児童書もたくさん描かれていますね。昔、ご自宅にお邪魔したときに、絵本だけで何百冊とありましたから。
寺田 そうですか!絵本のことはあまり知りませんでした。
加藤 『かわいそうなぞう』や、『平家物語』、『眠れる森の美女』など、たくさんあります。ただ、武部さんが描かれた図鑑が好きですね。
寺田 昔からの本ですね。武部さんは、最初から絵が上手かったのかな。
加藤 紙芝居も描かれていますが、その頃は……(苦笑)。
寺田 ほっとしました(笑)。それにしても、当時は、資料集めから何から大変だったと思うんです。特に想像力を持って描かないといけない物語とかでは特に。
加藤 それでいて膨大な量の作品を描かれていますから。夫人のお話では、絵本だけで千点単位で絵があるとか。ラピュータさんでも、武部さんの挿絵を『少年SF挿絵原画集』として出版されたのですが、そこに収録できなかった「火星シリーズ」の銃をつけたベルトや刀など、小さなカットもデジタル版にできれば網羅することができますね。
寺田 それも観たいです。企画展も世田谷文学館などで出来ればいいですね。この前も岡崎京子さんのものをやっていましたし、『SF展』もやったことがありましたよね。
加藤 やりました。
寺田 当時の武部さんのことをご存知の方のお話も聞きたいですし。ともかく、武部さんの原画を見たいです。生頼さんの時も感動しましたが。
加藤 結局、原画を見せるときに困るのは、スペースの確保の問題なのですよね。
寺田 確かにそうですね。3年前に京都で展覧会をやったのですが、襖70枚にプリントアウトして、それを屏風みたいにして飾ったんですけど、今その収納に6畳間1部屋使ってまして。そこで全部入れることができて、やればできるんだな、と。人は入ることができなくなりましたが(笑)。とにかく、絵の保管は本当に大変ですよね。我々はデジタルになってきたからよいですが、アナログ時代の方は特に、漫画家の方も含めて、原画問題はヘビーなことになっています。たとえば亡くなった漫画家の土田世紀さんの原稿が2万枚ちかくもあったんです。その2年後に「漫画ミュージアム」で回顧展をやった時、1部屋いっぱい床に敷き詰め、壁に張り巡らせて、残りは棚に重ねて、大変な量をひとめでわかる展示をされてました。それはつまり、その後の原稿の管理をどうするのかという問題提起でもあって。
加藤 漫画の原稿も国会図書館みたいのがあればいいのですけど。
寺田 「漫画国会図書館」とでもいいますか。仮にデジタル化しても、その原稿は捨ててもよいのかということもありますよね。歴史の中で消えてしまうのも仕方がないという意見もあるでしょうけれど、渦中にいる人間にとっては切実な話です。オレ自身、土田さんの展覧会の、その部屋には重すぎてすぐに入っていけませんでしたね。床にある原稿を踏まなくてはいけないので。まあ、他のお客さんは気にせず、どんどん踏みつけて入っていきましたが(笑)。原画、原稿の保管は文字通り問題山積です。



■デジタル化における様々な表現

加藤 もう一つ進んで、デジタル原画集の話をしますと、これまで紙媒体でやられた出版社の方は、デジタルにも束(紙厚)にこだわりがあるようです。
寺田 どういうことですか?
加藤 頁数、点数のことですね。ある程度の点数がないと値段がつけられないと判断されるのです。ただ、私が今やっている電子アプリでは、初期のものでは5点しかないものもあります。
寺田 それは少ないですねえ!売りは何になるのですか?
加藤 メイキングです。描いているところを時間の流れで見せています。
寺田 あ!なるほど。そういうことであれば納得です。それは観たいですもん。
加藤 基本的に最終的に絵としては1枚だけのものもありますから、それには「1枚だけの画集」というタイトルがついています。
寺田 なるほど。
加藤 他にもツィッターで発表した絵もあります。さらに、少し仕上げたときの絵とポスターサイズにするときの絵と、本来ならバージョンアップしていくわけです。
寺田 アップデートで絵が完成していくという。
加藤 そういうことです。アップデートしていくと価格も上がるので、最初に買っておくとよいという仕組みです。さらに、ツィッターで1年間、定期的に絵を大量に発表したこともあります。
寺田 何枚ぐらい描いたんですか?
加藤 180枚ぐらいですね。
寺田 うわー素晴らしい。
加藤 実際の仕事は、ある程度、制限がありますが、こうしたものは自分の自由にできるのがよいところです。それにツィッターに、リサーチも兼ねて、どんどん上げていくと、受け手の反応がわかることも有り難いです。
寺田 それは実に正しいやり方ですねえ。
加藤 そうすれば、評判がよいものはポスターサイズでどこかにお願いできるかなという判断もできます。デジタルにしても、いろいろなやり方が出てくるでしょうけれど、武部さんの絵は、原画の保管もそうですし、世の中に知ってもらうことも含めてデジタル化していくことも大事にしていきたいですね。
寺田 そう思います。
加藤 出版社としては、武部さんだけでは困るかもしれませんが(笑)、私はとにかく、まずは武部さんをよろしくお願いしようかと。
寺田 オレは武部さんだけでも、もう十分有り難いという感じです(笑)、でもそれ以外の方も横目で見ながら微力ですが応援いたします。